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 そのとき、ひとりの男が店の奥から姿を現した。奎吾さん、というアツシの声で、希はそれがさっき外にいた二人組のうちのもう一人であることに気がつく。 「酔っぱらいなんか相手にしてどうする。問題があったとき、面倒なのはこっちだぞ。中には日常生活でゲイだということを隠しているやつもいるんじゃないのか」  男の言葉に、周りの客たちは気まずそうに目をそらした。奎吾と呼ばれた男が希を見る。希はごくりと唾を飲んだ。  それまで気がつかなかったのが不思議なほど、男は姿かたちが整っていた。やや短めの髪を後ろに流し、すっと切れ長の目は涼やかだが色気が滲む。気がつけばいつの間にか目で追ってしまう、男はそれほどに魅力的だった。こんな男が相手だったら、きっと誰でも惑わされてしまうだろう。 「・・・・・・あんたみたいなのがいるからいけないのら」  希の言葉に、男は眉を顰める。 「どういう意味だ?」  こういう男が世の中に存在するから、みんな惑わされる。明だってきっと・・・・・・。 「あんたみたいな男がいるから・・・・・・」 「お前、黙って聞いてれば調子に乗りやがって・・・・・・!」  アツシが希の胸ぐらをつかむ。そのとき、ぐうっと腹の底からこみ上げるものがあった。 「アツシやめろ!」  男がアツシと希の間に割って入った次の瞬間、希は男に向かって盛大に嘔吐していた。 「うわっ! こいつ吐きやがった! マジ汚ねえ!」  アツシの声が遠くなるなか、希の意識はブラックアウトした。
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