28人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
大嫌い、だけど……
うちの結婚話は流れました。
あのあと、すぐに、お母はんが看病疲れで、亡うならはりましたしね。お父はんも酒量が増えて、五十前に、ポックリ。
苦労でっか?
苦労はしましたよ。
そのあとは、うちが一人で弟を育てましたさかい。
水商売しながら、なんとかかんとか、あの子が死ぬまで、めんどう見ましたえ。
享年は五十二です。
お父はんより長生きしましてん。
あの子にしては、きばったほうですやろな。褒めてやらなあきまへんな。
最期はなぁ。
うちの手をとって、何度も、何度も言いましてん。
「すまんかったな。あんとき、おれが引き止めたばっかりに。ごめんな。姉ちゃん。ごめんな」
ほんまになぁ。
あんたがおれへんかったら、うちは今ごろ、老舗の女将さんやったのになぁ。
でも、ええんよ。
「あんたは、そんなん、気にせんでええ」
「姉ちゃん……」
「あんときのリンゴの飴ちゃん。うまかったなぁ。正月になったら、買うてきたる。せやし、もっともっと長生きして、うちを困らせるんえ?」
ニッコリ笑うたくせに……。
その夜、輝之は逝きました。
いくつになっても、姉ちゃんの言うこと、きかん子や。
なんで、今になって、姉ちゃんを一人にするんよ?
今さら自由にされたって、姉ちゃん、この年じゃ、嫁にも行かれへんわ。
憎くて、憎くて、だけど、それ以上に大好きやった、うちのテルちゃん。
今も目をとじると、リンゴの飴ちゃん、にぎりしめて、泣いてすがった、あの子が、まぶたの裏に浮かびます。
ほら、あざやかやね……。
最初のコメントを投稿しよう!