大嫌い、だけど……

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大嫌い、だけど……

うちの結婚話は流れました。 あのあと、すぐに、お母はんが看病疲れで、亡うならはりましたしね。お父はんも酒量が増えて、五十前に、ポックリ。 苦労でっか? 苦労はしましたよ。 そのあとは、うちが一人で弟を育てましたさかい。 水商売しながら、なんとかかんとか、あの子が死ぬまで、めんどう見ましたえ。 享年は五十二です。 お父はんより長生きしましてん。 あの子にしては、きばったほうですやろな。褒めてやらなあきまへんな。 最期はなぁ。 うちの手をとって、何度も、何度も言いましてん。 「すまんかったな。あんとき、おれが引き止めたばっかりに。ごめんな。姉ちゃん。ごめんな」 ほんまになぁ。 あんたがおれへんかったら、うちは今ごろ、老舗の女将さんやったのになぁ。 でも、ええんよ。 「あんたは、そんなん、気にせんでええ」 「姉ちゃん……」 「あんときのリンゴの飴ちゃん。うまかったなぁ。正月になったら、買うてきたる。せやし、もっともっと長生きして、うちを困らせるんえ?」 ニッコリ笑うたくせに……。 その夜、輝之は逝きました。 いくつになっても、姉ちゃんの言うこと、きかん子や。 なんで、今になって、姉ちゃんを一人にするんよ? 今さら自由にされたって、姉ちゃん、この年じゃ、嫁にも行かれへんわ。 憎くて、憎くて、だけど、それ以上に大好きやった、うちのテルちゃん。 今も目をとじると、リンゴの飴ちゃん、にぎりしめて、泣いてすがった、あの子が、まぶたの裏に浮かびます。 ほら、あざやかやね……。
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