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大好きだけど、大嫌い
うちには弟が一人おります。
いえ、おりました。
つい最近、亡うなりましたん。
生まれつきの虚弱体質でしてな。
最期は、うちも、おばちゃんやさかい、よう看病できんと、病みやつれて、えろう汚いおっさんになってしまいよったんですけど。
誰も想像できへんかったでっしゃろなぁ。
最期のころの弟を見て、これが若い時分には、それはもうビックリするような美少年やった、なんて。
少年のころの弟は、ほんまに二枚目役者にも、そうはあらへんような美少年でしたえ。
喘息持ちで心臓も弱くてなぁ。いつも青い顔しとりました。それがまた、母性本能くすぐる言うて、近所の娘らの人気もんでした。
昭和の三十年代のことです。
ずいぶん前のことですなぁ。
うちのお父はんは、簪の職人しとりました。舞妓はんの使う花簪を作っとりました。布切れを丸めて一つ一つ花の形にしましてな。きれいな簪にするんです。
だけど、うちは一回も、あないキレイな簪、つけさしてもろたことないですなぁ。
職人の稼ぎなんや、たいしたことあらしまへんもん。
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