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しかしその感情とは別のところで、彼を女たちとは区別していることも自覚している。
今まで断ってきた女たちとどう違うかと考えてみると、麻木は別に八奈見の見た目や肩書など打算的なものがあるから好意を持ったのではないということに原因があると思う。
八奈見の性格をちゃんと知っていて、喧嘩のような言い争いまでして、それでも八奈見の能力を認めてくれ、尊敬してくれている。そこが最も違う点ではないだろうか。
顔がいいからと勝手に妄想仕立ての理想像を押し付けてきた相手には辟易して、故にぞんざいな扱いになっていたことは確かだ。麻木はそうじゃないから邪険にしたくない。
誰だって、本当の自分を認めてくれている人間を嫌いにはなれない。
そして、麻木は失恋など何もなかったように振る舞っているということも気になる。
もっと暗い空気を纏っていてもおかしくないのにそうしないのは、きっと八奈見に気を遣っているのだろうと思う。
ということは、今まで知らずにいただけで、実は感情表現が不器用だっただけなんじゃないか。
だからといって急に態度を変えるのもおかしいし、彼もそれを望んではいないだろう。
普通に接していく。それでいいはずなのに、どこか釈然としない。
本気の恋愛を経験してしまうと今までのように割り切れない。
相手の『つらい』『哀しい』という感情に対し、見ないふりを決め込もうとしても、否応なく流れ込んでくる。
他人に対し淡白で無関心だった自分が、そんなものに同調する日がくるとは思ってもみなかった。
人を好きになると、こうも考え方が変えられてしまうとは。
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