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「いえ。皆さんのお話を横で聞いてるだけで楽しいので」
「みんな結局仕事の話ばっかりだもんねーそりゃつまんないわよね」
「僕は夏芽くんがいてくれるだけでお酒が美味しいけど」
「いえいえ。本当に俺のことはお気になさらず楽しんでください」
気を遣って参加したのに逆に気を遣われたら意味がない。二人に愛想を返し、彼らが所員たちの輪に戻ると、そっと場を離れた。トイレに行くふりをして一人で休憩しようと歩きだす。
昼間はまた違うのかもしれないが、夜は特に酔っ払いが多い気がする。警察官がきて連行されているサラリーマン風の人が遠目に見えるが、喧嘩にでもなったのだろうか。
桜並木から離れると人気は少しまばらになる。夏芽は木陰でため息をついた。
社会人になればこういう飲み会は定期的にあって、参加を余儀なくされるんだろうなあ、と気が重くなった。バイトの学生だからこそ今ここでもお客さんのような扱いでどこか他人事だけれど、会社員になれば宴会芸のひとつでも披露しなければならなくなるのではないか。
実際、別の花見グループの中でも仮装やカラオケをしているサラリーマンの姿がちらほら見受けられる。彼らだって何も好き好んでそれをしているわけではないだろう。仕事の一環として頑張っているのだと思う。
大変そうだな…俺にやれるかな。どこに就職するかも決まっていないのに今から憂いているのはおかしいだろうか。
四月で三年生に進級した。来年中に就職先を決めなければならない。
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