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「…そうですね。そのつもりでいます」 「いや、それは君の自由だから俺が言うことじゃなかった」  すぐにフォローすると麻木の表情が僅かに和らいだ気がした。 「やっぱり優しいですね」  難しい。早く忘れてほしいという態度を取れば傷つけるし、優しくすればまた好かれてしまう。  どうしろっていうんだ。 「お気を遣わせてしまって申し訳ありませんでした。訂正分の資料は部数分印刷し直し、差し替えるよう書記官へ指示してきます」 「ああわかった」  頭を下げると麻木は評議室を去っていく。  何故麻木に対して女をふるように割り切れないのだろう、と不可解に思う。女に対してなら辛辣なくらいすっぱりと断ることができ、つらそうな顔をされてもそこまで気にならないのに。  彼が男だから? 同僚だから?  確かに同性に恋するせつなさは八奈見だって充分すぎるほど理解している。夏芽を好きだと自覚した時、男同士で実りがないと思い込んでいたからすぐに諦めようと決めて、その間精神的に追い詰められた。  そうした経験があるからこそ、人をふる時は以前ほど事務的になれなくなっていた。麻木に対してもできるだけ真摯に接したいと思っている。
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