8469人が本棚に入れています
本棚に追加
/345ページ
夕方弁護士事務所にバイトにきた夏芽は、すぐに風間の様子がいつもと違うことに気づいた。
何やら、とても浮かれている。顔が緩みっぱなしで上機嫌なのだ。
「どうやら、今日例の美人裁判官と食事に行けることになったらしいわ」
風間の浮かれ具合に引いているらしい麗香が、夏芽が作業しているコピー室までやってくると、客が差し入れてくれたという個包装された焼き菓子を夏芽にくれた。
「それって、あの麻木さんっていう八奈見さんと同じ職場の…?」
「そう、それ。こないだ裁判所に用事があった時に見つけて、声かけたらしいのよ。怪しまれないように八奈見さんの名前出したらわりとすんなり連絡先を交換できたみたい」
それはまあ確かに同じ職場の人間の名前を出し、友人を名乗られたら、そこまで不審がりはしないだろうけど。
「そこまでするんですね、風間さんって」
「ねー? びっくりよね。多分、実際見てみたら想像以上に綺麗だったんじゃないかしら。で、声をかけずにいられなかったってとこだと思う」
なるほど。そこまでの美人だった、と。
それはいいのだが、その美人の麻木は毎日八奈見と仕事を共にしているのだろう?
本当に八奈見は一度でもどきっとするとか変な気が起きそうになったことはないのだろうか。
疑いたくないのに、みんながこぞって噂するほどなら、と変な想像が働いてしまう。
浮気なんてする人じゃないと確信していたくせに、すぐ感化されてろくでもない考えになる自分は八奈見と付き合う資格なんてないんじゃないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!