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「いや、そういうわけじゃなくて…」
「そういうわけじゃなくて?」
「……。花見で佐田のお兄さんに会いました。同じ大学だった女性が同じ会社だとかで同伴してました。森川さんっていう」
「森川? 知らないな」
まあ、そういうものだろう。片想いしていたほうはいつまでも相手への想いや記憶が残り、ふった側は綺麗さっぱり忘れているという。しかも八奈見の場合圧倒的にその件数が多いだろうから、いちいち憶えていられないという事情もわかる。
「美人でしたよ。麗香さんもそうですけど、何が気に入らなかったのかなと思って」
責めるつもりは毛頭ないが、そんな口調になってしまった。
すると意外にも八奈見は不快感を示さず、考えるような面持ちになった。そして口を開く。
「じゃあ反対に考えてみろよ。女じゃなくてもいい。そこまでよく知らないやつから『親友になってほしい』といきなり一方的に言われて、『はい。じゃあなりましょう』となるか?」
突然の例題に、夏芽も考え込んだ。
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