(Episode1) 1

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「いや、そういうわけじゃなくて…」 「そういうわけじゃなくて?」 「……。花見で佐田のお兄さんに会いました。同じ大学だった女性が同じ会社だとかで同伴してました。森川さんっていう」 「森川? 知らないな」  まあ、そういうものだろう。片想いしていたほうはいつまでも相手への想いや記憶が残り、ふった側は綺麗さっぱり忘れているという。しかも八奈見の場合圧倒的にその件数が多いだろうから、いちいち憶えていられないという事情もわかる。 「美人でしたよ。麗香さんもそうですけど、何が気に入らなかったのかなと思って」  責めるつもりは毛頭ないが、そんな口調になってしまった。  すると意外にも八奈見は不快感を示さず、考えるような面持ちになった。そして口を開く。 「じゃあ反対に考えてみろよ。女じゃなくてもいい。そこまでよく知らないやつから『親友になってほしい』といきなり一方的に言われて、『はい。じゃあなりましょう』となるか?」  突然の例題に、夏芽も考え込んだ。
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