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「…以上のとおり、本件が重大かつ残酷非情な犯行であり、被告人には二人の生命を奪った前科があることを考慮したとしても、死刑を選択することが真にやむを得ないものとは言えない。原判断は裁判員と裁判官が議論を尽くした結果、無期懲役刑と死刑という質的に異なる刑の選択に誤りがあると判断できる」
裁判長が読むこんな長たらしい判決文を誰も聞いてなどいない。
冒頭の『無期懲役』の判決が出た瞬間、被害者遺族から泣き叫ぶような声が上がった。
判決文朗読はまるで葬式の読経かのように、啜り泣きが法廷内に響いていた。
これで弁護側が控訴して高裁が棄却すれば、無期懲役が確定する。
一人の人間の命が助かる。
それによって永遠に報われない人たちが生まれる。
もしこれが死刑判決で、高裁、最高裁も認めた場合。
一人の人間が抹殺される。
それを喜ぶ人たちがいて、それを哀しむ人たちもいる。
法は公平ではなく、公平は幸福とイコールではない。
その事実とどう向き合っていくか。
どう折り合いをつけていくか。
どう諦めていくか。
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