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『でも八奈見さんも職場で行きたくない飲み会とかありますよね。まさか毎回断ってるんですか?』
疑問をぶつけると、彼は法律書とノートPCを見比べながら、淡々と回答する。
『社会人でそれをやると職場の士気が下がる。だから毎回行くと返事している』
『えっ凄い。付き合い悪そうなのに』
と言うと軽く睨まれた。
『で、当日「仕事が終わり次第合流する」と言っておいて、結局行かない』
『それはズルというか、計画的ドタキャンですよね…』
『実際仕事で行けないんだよ。俺以外にもそういう人間はいるし、特に疑われることはない。普段から長時間残業をしているからいつものことだと看過してくれる。飲み会を優先させて法廷の準備が間に合わないほうが問題になるだろ』
八奈見の弁はもっともで、彼の仕事が滞ると色んな方面で差し支えがあるから、参加を強制されないというのも納得できる。
夏芽はじゃあそのやり方を起用するかというと、しないだろうなと思う。何となく罪悪感があるし、八奈見ほど上手く説明をつけられる自信がない。おそらく普通に断ってしまうはずだ。
『花見に行くなら酔っ払いに絡まれないように気をつけろよ』
そしてしっかり釘を刺された。八奈見は意外にも、夏芽に対して心配性なところがある。
かよわい女の子ならわかるのだが、これでも夏芽は成人した男だというのに。
それを言うと、男に襲われたことがあるくせに、という目で見られるので何も反論ができないのだった。
元より八奈見に勝てたことなどないので、大概において言い返すのは諦める。
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