8598人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの人…絶対俺のこと誤解してるよな」
ため息とともに窓を全開にすると、狭い部屋の中を風が竜巻のように一巡してカーテンをふわっと浮かせた。
少ない洗濯物はもう乾いている。取り込み、畳みながらふと考えてしまうのはいつもあの恋人のこと。
恋人といっても、実際付き合うようになってから三ヵ月ほどしか経っていない。そのせいもあるが、お互いに相手を詮索しないタイプなので、余計に相手の情報は未知の部分が多い。
知りたい気持ちは当然あるけれど、立ち入ることによって不快感を示されるのが怖い。
そして、知りたくないものを知ってしまって、後悔することが怖い。
だから気になることがあっても、できる限り触れないように、見ないようにしている。
こんなことをしているから、自分のことを知ってもらえていないままなのだろうと思う。
八奈見は夏芽をただ見た目の印象で可愛く純真な青年という位置づけで見てくれているような気がするけれど、そんなことは全然なくて、普通の男だし、欠点ももちろんたくさんある。
黒い感情も、言わないだけで、色々ある。
でもそれを出してしまえば、『八奈見の好きな夏芽』ではなくなるのだろうな、と思うと、できない。
悔しいくらい八奈見のことが好きで、彼に傾倒していて、影響を受けている。
そういう気持ちを知られるのも怖い。
八奈見に夢中だと思われたら引かれるんじゃないか、と案じている。
だから同居の話が出ても、いつもごまかして逃げている。
最初のコメントを投稿しよう!