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暖かくなってきたといっても、夜はまだ冷え込む。今日は一日講義があったので、夕方から事務所で仕事をし、所員たちはいつもより早めに仕事を終わらせ、皆で揃って公園まで歩いてきた。
夜桜にここまで人が集まるのかというほど、人でごった返している。ライトアップされているものの、桜を純粋に楽しみに来ている人はごくわずかだろう。どこもかしこも酒宴で賑わっている。
毎年のことで慣れているのか、花見のための準備は所員たちが分担しており、当日になってバタバタするということはなかった。食事はケータリングの豪華なメニューが並び、アルコール類もビールからワインまで一通り揃えられ充実している。
本日所長は最初に顔を見せてすぐに帰ってしまった。予定があるとのことだが、おそらく自分がいては所員たちが盛り上がれないと配慮してのことだろう。実際、所長が帰ってからのほうが所員たちの緊張感はなくなって、リラックスしている。
流石に弁護士事務所なので、そこは羽目を外すこともなければ、酒の強要もない。女性に酌を求めることもないし、各人近くの者と雑談しながら好きなように飲み食いしている。
自由で縛りのないこの事務所の雰囲気は嫌いではないが、こういう飲みの場が得意でない夏芽は一人でジュースの入った紙コップを手にぼーっとすることしかできず、つまり所在ないのだった。
「夏芽くーん、飲んでる? あ、お酒ダメだったよね」
「隅っこでちょこんとしてるのも可愛いけど、浮いてます感が凄いわ。近くの騒がしい大学生のノリを見てると、とても同じ年頃には思えないわよ」
風間と麗香が気にかけて話しかけてくれるのだが、苦笑しか返せない。
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