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冬・・・。
頬に当たる風が刃の様に突き刺さり、体も芯から冷えきって、外に出るのも躊躇われるそんな季節。
朝起きるのが辛かったり、布団の中で一日過ごしたいと目覚まし時計とにらめっこしたり、兎に角俺は冬は苦手なのだ。
冬生まれなのに?なんて、愚問はやめて欲しい。
寒い時期に生まれようが、苦手なものは苦手なのだから。
「寒いね。」
隣でこたつの中に両手を入れて温まっているのは、生きてきて二十数年、生まれて初めての彼女。
今まで二人でパンダを見てきたのだから、体も冷えている。
都内にある動物園で生まれたパンダの赤ちゃんの観覧抽選に応募して当たったのだ。
笑えるだろ、寒さに弱い俺がわざわざ出向いてパンダを見に行くなんて・・・。
でも、可愛い彼女が見たいと言うのだから行かないわけにはいかないだろ。
そんなわけで、今はその帰りに彼女の家へ寄ってまったりしているのだ。
「でも見られて良かったね、見たかったんでしょ。」
「うん、可愛かったー。」
ふわりと笑う彼女にドキッとしつつ、俺はそれを悟られないように下を向いた。
・・・ん?
何かが手に触れた。
あ、手だ。
隣にいる彼女の手。
ひどく冷たい手が、俺の手を握りしめた。
「かなり冷えてるね。」
「うん、私冷え症だから手先とか、足先が氷みたく冷たくなるんだよね。」
「そっか、それじゃ冬は大変だね。」
「うん、寝る時とか冷たすぎて眠れなくなるよ。・・・でもさ、こたつの中で食べるアイスとかって、とても美味しく感じない?」
子供みたいな表情でこちらを覗く彼女に、俺は自然と笑みが零れた。
「わかる、それ。」
二人して笑うと彼女がそうだと手を叩いた。
「アイス冷蔵庫に入ってたはず、食べようよ。」
「いいね。」
立ち上がった彼女が冷蔵庫へと向かっていく。
その後ろ姿を見て気がついた。
彼女じゃない。
俺の手を握りしめているのは、ダレダ?
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