過去の出来事

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 母静代は菜野子を心配して線香の立ち込める会場で我が子のように寄り添っている。森川家は水守家の近所で、菜野子と尚樹は幼馴染で親同士も仲が良かった。  菜野子に涙はなく、ハンカチで目頭を押さえているのは尚樹の母静代の方で、頭を撫でられて逆に励まされている。 「大丈夫?おばさん」 「菜野子ちゃんも泣きなさい。こんな悲しいことないよね」 「ううん、平気。だってお母さんは森の家で絵本を描いてるんだもん」  そんな子供のような菜野子の姿を少し離れた位置から尚樹が見つめ、父との会話を思い返し、友だちを超えて守護の使命を感じた。 「記憶は戻らないのかな?」 「わからん。医者は頭を打ったことよりも、母の死体を見たショックの影響だろうと言っていた」 「でも、奇跡だよな。あんな大事故で菜野子は無傷で生き残ったんだ。あいつが言うように、涙はいらないのかも知れねー」  尚樹はそう言って父に微笑み、その時の心が菜野子にも通じたのか、こっちを見て微笑み、二人で祭壇の笑顔で見守る遺影に視線を向けた。
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