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悲劇の事故
[事後シーンの回想]
「恋よさようなら」というディオンヌ・ワーウィックの歌声が車内に流れている。
カーステレオの歌声に合わせて、運転している朝子と後部席にいる菜野子が楽しそうに歌う。
[恋よさようなら:I’ll never fall in love again](意訳)
あなたが恋に落ちるとどうなるの?
ピンを持った男がシャボン玉を弾けさして
それは面倒なことばかり背負い込むわ
私はもう二度と恋に落ちたりしないわ
私はもう二度と恋に落ちたりしないわ
菜野子は寝転がって絵本を開いて口ずさみ、後ろの荷台にはアウトドアグッズから絵画道具、カメラから本まで荷物が山積みされている。
大学生の菜野子は夏休みになると白神山地の麓の丸太小屋へ母と一緒に長期のバケーションに出かけるのが恒例になっていた。
母は絵本作家で、子供の頃から菜野子を絵本の中の夢の世界へ連れて行ってくれ、幼い頃からそこで一緒に過ごすのが日常化している。
不思議な世界観を持ち、愛とユーモアに溢れた母を菜野子は子供の頃からずっと尊敬し、愛していた。
『夢見心地のシングルマザー』世間の人はそう揶揄するかも知れないが、菜野子は母が大好きで最高にカッコいいと自慢している。
そして悲劇はその旅の途中で起こった。山道で対向車のトラックがカーブを曲がりきれずにミニバンに衝突して、母と菜野子は車ごと崖の下へ突き落とされたのだ。
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