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妖精との再会
[山下公園・氷川丸]
菜野子は絵本を閉じると海の彼方を眺め、空を飛ぶカモメが岸辺の博物館船・氷川丸に集まっているのに気付く。
「ナオ、あの船に乗りたい」
「ん?いいけど」
立ち上がって右手を上げて指し示す菜野子に、尚樹は芝生に寝転がって眠そうに答えた。絵本を読む菜野子の声が心地よくて頭がぼんやりしている。
氷川丸の甲板の船首に洋介が佇み、カモメはその存在を教えるように空を舞い、菜野子は尚樹と一緒に歩き出して岸の近くまで来ると、ダークルームの入口ですれ違った人が乗っていると分かった。
「さっき逢ったけど、元気なかった」
「西島洋介?」
菜野子が尚樹にパンフレットを見せ、西島洋介がダークルームの店長で、ロビーの壁に飾ってある【夢と冒険の地へ】を撮った写真家だと知る。
[プロフィール写真・西島洋介]
ロングの天然パーマでメガネを掛け、数年前に撮った顔写真という事もあり、歳の割には童顔で若々しく見える。
「佳代子にあんな性欲があったなんて……」
洋介は泉田と馬車道で別れてから夢遊病者のように彷徨い、気がつくと氷川丸に乗り海を眺めていた。仕事をする気にもなれず、妻がどういう人間であったかさえ分からなくなった。
「僕が妻を知らなかったのか?」
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