幻想的な写真

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 そんな泉田を洋介は苦々しい表情で見た。店内に飾ってある写真をこの探偵が絶賛していることを洋介は知っていたが、洋介は写真家を諦めて今の仕事に就いた。  つまり『夢』を諦めた自分が今日『愛』も失ったということである。 「佳代子のやつ、僕には見せたことの無い表情してました」 「それそれ、これなんて芸術っぽくない?女のエロい本性を一枚の写真に凝縮してる。なんてな」  泉田は通りを歩きながら封筒に入れた写真を出して見せ、洋介は慌ててやめさせ、通行人が不審な表情でこっちを振り返って見た。 「やめてくださいよ」  そんな二人とすれ違った若者が、スマホの画面の地図を見ながら、ダークルームの場所を探している。  森川尚樹は心配そうな表情でダークルームの方へ走って行った。  そして水守菜野子はドアを開けて中へ入ると、店員の理恵に頼み込んで、ロビーの壁に飾ってある写真を嬉しそうに鑑賞していた。 【タイトル・夢と冒険の地へ】  菜野子はパンフレットに載っていた写真をどうしても間近で見たくて、このダークルームに来店したのである。 「私ここで生まれたんです」  写真を眺めてそう呟いた菜野子を理恵は後ろからそっと不思議そうに見守り、不思議な少女だと首を傾げた。
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