第1話 うめくこたつ 怪

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 誰もいない――つまり僕しかいない部屋の中で、こたつの中から人らしきうめき声が聞こえてくるというだけで、これはもう、ミステリーというよりはホラーである。  ホラーは困る。だから僕は謎を解くことにしたのだが、まずは身の安全を図るべきだろう。  速やかに部屋を出るか――冬のこの寒空に行く当てもない。誰かに助けを求めるか――まさか、こたつからうめき声が聞こえるからと、そんな理由で呼び出せるような知人友人はあいにく思い当たらないし、ご近所に駆け込むのはもっとありえない。  僕は隣に住んでいる人の顔も、ろくに知らない。  それに――誰かを呼ぶには電話を掛けないといけないが、その電話はおそらくあのこたつのなかにある。そして電話だけならまだしも、外で時間をつぶすにしてもお金がいる。財布もおそらくこたつの中である。別にこたつにそれらを入れておくことが、この部屋の習わしというわけではない。  僕の下半身は寝巻き代わりのスウェットが着用されている。そして想像するに、僕はこたつの中でジーンズからスウェットに履き替えたのだ。  終電ギリギリまで飲んで騒いで、どうにかこうにか一人暮らしのアパートにたどり着いたようだが、駅で友達と別れてからの記憶が恐ろしく曖昧だった。相当に酔っていたに違いない。曖昧というより、完全に忘れてしまっていた。思い出すのは、思い出したくもない様な友達ののろけ話と苦手なカラオケで恥をかかされ、勢い飲んでしまったテキーラの熱い喉越しの感覚だ。  心の乾き、喉の渇き、そして吐き気。  そんなわけで、僕はアパートに戻り、唯一の暖房であるこたつをつけてその中で着替えを済ませ、そのまま転寝をしてしまったらしい。らしいというか、ほぼ確定である。何も今回が特別なことではない。月に一度はこんな酒の飲み方をしている。幸い、ここまで誰にも迷惑を掛けずにこられたのだが、はたして今回は、いささか状況が違っている。
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