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深夜2時過ぎ、僕はトイレに行きたくなって目を覚ました。目を覚ました瞬間にまず、自分の酒臭さと煙草臭さに毎度のことながら呆れてしまうのだが、逆にこれだけ酔っぱらっていても、戸締りや着替えはしているのだと関心もする。用を足し、襲い掛かる寒気に身を震わせ、急いでこたつに戻ろうとした瞬間、妙な物音に気付く。
「むぅーう、むぅーう」
人の、それもやや低い声の、おそらく男性のうめき声がこたつの方向から聞こえてくる。
誰かいるのか?
そう考えた自分はどれだけ滑稽な推測をしたことかと、まずは自分を笑って落ち着かせた。
何かの間違えか、或いは記憶違いか。
間違えかといえば、それは確かに聞こえてくる。疑いようもなかった。記憶違いに関してはまず事実関係を確認しなければならない。もしかしたら、酔った勢いで誰かをここに泊めることにしたのだったか?
周りを見渡しても他人の荷物などないし、まさかとは思ったが念のため玄関も確認する。
ない。
玄関には踵がすり減ったスニーカーが、まるで小学生が脱ぎ散らかしたように転がっていた。
ないはずのものがない。見知らぬ靴は収納ラックにもなかった。
ないはずのものがないのに、聞こえないはずのものが聞こえていることがわかった。
こんなことができるのは空き巣か、お化けくらいのものである。
どちらも怖いが、サスペンスとホラーだったらどっちがましかという二択はできる限り避けたかった。
もっというのなら、不法侵入者と一つ屋根の下で過ごしましたというシチュエーションと、この世のものでない何かと添い寝をしていましたというシチュエーションの二択問題ということであれば、どちらかといえばそれはコメディであるのだが、しかし、どちらにしても現実的には"笑えない"話である。
つまり洒落にならない状況だ。
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