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その直後、有頂天になったのも束の間、克彦のケータイが鳴った。
画面を見た瞬間、険しい顔をして立ち上がる。
「ごめん、ちょっと出るね」
ケータイを耳に当てたまま立ち上がり、席を離れる克彦の後ろ姿を佳乃は静かに見送った。
数分後、「申し訳ない」といった風に、顔の前で手を合わせながら克彦は帰って来た。
「ごめん、仕事でトラブルが起きちゃって」
会社に戻らないと、と言いながら、せわしなく帰り支度を始めた。
「本当に、ごめん。埋め合わせは近い内に必ずするから」
「大丈夫、気にしないで」
本当は悲しくて残念で仕方がなかったのだけれど。
ほとんど手をつけていない料理を前に、精一杯微笑んでみせた。
「佳乃は、本当に可愛いなぁ」
去り際に頭を柔らかく撫でた右手を上げ、「ごめんね」と爽やかに克彦は去って行った。
「課長で、第一線の営業マンでもあるものね…」
忙しさは自分たちの比ではないのだと、自分に言い聞かせた。
俯いて小さくため息をつく。
顔を上げた瞬間、佳乃は目を疑った。
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