1.ゲスの極み男。

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その直後、有頂天になったのも束の間、克彦のケータイが鳴った。 画面を見た瞬間、険しい顔をして立ち上がる。 「ごめん、ちょっと出るね」 ケータイを耳に当てたまま立ち上がり、席を離れる克彦の後ろ姿を佳乃は静かに見送った。 数分後、「申し訳ない」といった風に、顔の前で手を合わせながら克彦は帰って来た。 「ごめん、仕事でトラブルが起きちゃって」 会社に戻らないと、と言いながら、せわしなく帰り支度を始めた。 「本当に、ごめん。埋め合わせは近い内に必ずするから」 「大丈夫、気にしないで」 本当は悲しくて残念で仕方がなかったのだけれど。 ほとんど手をつけていない料理を前に、精一杯微笑んでみせた。 「佳乃は、本当に可愛いなぁ」 去り際に頭を柔らかく撫でた右手を上げ、「ごめんね」と爽やかに克彦は去って行った。 「課長で、第一線の営業マンでもあるものね…」 忙しさは自分たちの比ではないのだと、自分に言い聞かせた。 俯いて小さくため息をつく。 顔を上げた瞬間、佳乃は目を疑った。
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