2.ゲス男とゲス女。

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「佳乃ちゃん、ストレス溜めてる?」 朱里が、佳乃の指を優しくマッサージしながらフランクに問いかけた。 『Southern』というサロンの名前は、訳して字の通り、自身の苗字「南野」にちなんでいるらしい。 「桑田佳祐のファンってわけじゃないのよ」 初めて来店した際にそんな冗談を聞いて、佳乃は朱里のファンになった。 一昨日までは天にも昇る心持ちだったのに、昨日の『三田課長、3人目おめでとう』事件で一気に地獄へ突き落とされた。 ストレスを感じずにいられようか。 「ええ、まぁ…分かっちゃいます?」 「爪と髪の毛には、てき面に疲労が出るからね~」 軽口を叩くくらいの間柄にはなっていたけれど、さすがに朱里さんに不倫の相談は出来ない。 「働く女子は、大変だ」 「それなら、朱里さんだって」 「私は、好き勝手させてもらってるもの~」 既婚で子どももいて、自営で好きなことを仕事に出来て。 朱里こそ、全てを手に入れた、一昔前で言うところの「勝ち組女子」なのだろう。 また気分が落ち込みそうになったところで、 「はい、出来上がり!」 朱里の軽快な声が響いた。 薄桃色に仕上がったネイルを目にして、少し気持ちが和んだ。 「また、元気な時にガッツリ盛らせてね。今日は体調悪い中、来店ありがとう」 茶目っ気たっぷりに力こぶを作って、朱里は佳乃を見送った。 こういう気配りとユーモアを併せ持った素敵な女性になりたいと、素直に思った。
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