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浪越屋デパート外商部事務所内の一角。
事務デスクのPCに向かい、単調なタイピング入力をしている人見佳乃の前に、課長の三田克彦が立った。
「人見さん、これ50部ずつ作っといてくれる?全コピーで閉じればいいから。顧客に渡す資料なんだけど、これから売り場を回って13時には外回りへ出るから。それまでによろしく」
そっけなく渡した資料の左端に、二つ折りにしたメモがクリップで留めてあった。
開いてみると、見覚えのある几帳面な文字が並んでいる。
『19時 いつもの店で』
数字の羅列を見続け、眉間にシワが寄り始めていた佳乃の表情がふっと和らいだ。
事務員である入社5年目の佳乃と、30代半ばにして課長職、営業成績は常にトップを誇るエリート社員の克彦。
二人は、不倫関係にあった。
ハンサムでフェミニストな克彦は、既婚者にも関わらず、部署外の売り場社員から派遣のマネキンまで、女子人気が相当高かった。
8年前、佳乃の入社以前に宝飾部門の元社員だった奥さんと『できちゃった結婚』だったらしい。
しかし、とにかく、このスマートで仕事の出来る人は2年前から私の男なのだ、と佳乃は舞い上がりそうな気持ちを抑えつつ過ごしていた。
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