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真顔を作り直し、デスクの右前方にある掛け時計をチラッと見る。
午前就業の終了まで、残り30分を切っていた。
「お昼返上で、やらなくちゃ」
一人言として呟いたのだけれど。
「手伝いましょうか?」
背後の席に座る、同じく事務員の天崎倫音から声をかけられた。
「えっと…」
「迷惑なら、邪魔しませんが」
「ううん、ありがとう。助かる」
1年前に中途採用で外商部へ配属された同い年の倫音は、1つ教えると10のことが出来るタイプらしい。
先輩である佳乃が5年かかって出来たことを、あっという間に習得してしまった。
それ故に、彼女の方から尋ねてくることも、言葉をかけてくることも全くなかったのだけれど。
仕事のトロい先輩を見かねて、とうとう助け船を出す気が起きたのだろうか。
不甲斐なさに意気消沈する佳乃を放って、倫音は部署内のコピー機へと無言で向かう。
慌てて克彦から受け取った資料を手に、
「ありがとう、天崎さん!」
遅れて追いかけながら、佳乃は早くも二度目の礼を告げた。
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