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営業員たちが出掛けてしまった室内で、ひたすらコピー機が回転する音を二人で聞いていた。
沈黙に耐えられず、佳乃は口を開いた。
「天崎さんは、彼氏とかいるの?」
「彼氏『とか』とは?」
規則的に排出される資料コピーを手際よくまとめながら、倫音は無表情で答える。
「えっと、結婚を考えている人とか…そこまでじゃなくても、お付き合いしている人とか」
「彼氏とか」という文言にツッコミが入るとは思わず、しどろもどろになりながら、佳乃は噛み砕いて、もう一度倫音に尋ねた。
「いません」
「え?」
「彼氏『とか』いません」
やはり、倫音は無機質に答える。
「好きな人も?」
「いません。興味ありません」
「男の人に?」
「はい」
そうなんだ…。
これ以上質問しても埒が明かない気がしたため、佳乃は心の中で小さく呟いた。
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