1.ゲスの極み男。

4/14
前へ
/70ページ
次へ
営業員たちが出掛けてしまった室内で、ひたすらコピー機が回転する音を二人で聞いていた。 沈黙に耐えられず、佳乃は口を開いた。 「天崎さんは、彼氏とかいるの?」 「彼氏『とか』とは?」 規則的に排出される資料コピーを手際よくまとめながら、倫音は無表情で答える。 「えっと、結婚を考えている人とか…そこまでじゃなくても、お付き合いしている人とか」 「彼氏とか」という文言にツッコミが入るとは思わず、しどろもどろになりながら、佳乃は噛み砕いて、もう一度倫音に尋ねた。 「いません」 「え?」 「彼氏『とか』いません」 やはり、倫音は無機質に答える。 「好きな人も?」 「いません。興味ありません」 「男の人に?」 「はい」 そうなんだ…。 これ以上質問しても埒が明かない気がしたため、佳乃は心の中で小さく呟いた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

205人が本棚に入れています
本棚に追加