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  〝若い頃の恋なんて一過性のものなんだから、そんなに落ち込まなくてもそのうち忘れちゃうよ〟  その言葉を私は静かに思い返していた。  雨が降り出していた。  二月の冷たい雫たちがしとしとと窓枠を打っている。連日の雨模様に辟易しながら、私は視線を向けずにその音だけを聞いていた。その雨は私の心の中にまでも降り注いでいて、そのせいで体の芯まで冷えていくような気がした。と言ってもそれは心理的な話であり、下半身は今、暖かな堀り炬燵の中に入っているのだが。  お母さんはよく「こんな古い炬燵捨てて、いっそリフォームして洋間にしたい」と言っている。だが私はこの昔ながらの掘り炬燵が好きだった。足をブラブラさせ、畳の匂いを感じながらテレビを見るのが至福の時間だった。しかしお母さんの言うことも分かる。うちは古き良き日本家屋で、白い土壁は外の空気が簡単に通り抜けてくる。心情面も相まって、炬燵の中にいるのに氷点下の外に立たされているような気分だった。  炬燵の上には定番の、竹籠に積まれた蜜柑たちが置かれていた。それを直視することなく手探りでつまみながら、私たちはテレビに夢中になっていた。画面には昨日録画したB級ホラー映画がクライマックスを迎えている。画面の中では逃げ惑うヒロインの首筋に今、ロープが巻かれようとしている。私は昨日リアルタイムでこの映画を視聴済みだったため、この後の展開を知っている。怖くはなかった。 「あっ……! ……怖」  向かいに座る愛梨が思わず声をあげる。つまんでいた蜜柑をころりと放り投げ、その手で両目を隠した。  そんな可愛い愛梨の仕草を横目で見ながら、さらに斜向かいに座る田口くんの様子も見てみる。彼もまた愛梨を見ていた。びくびくする愛梨を見て、微笑ましく笑っている。  愛梨と田口くんの距離が、少しだけ近い。  堀り炬燵の中で二人は手を繋いでいるんだろうなと思った。  
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