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穏やかな間氷期は終わりを告げ、地球は氷河期へと突入した。かつて九十億までその数を増やした人類は、致死ウィルスの蔓延、三度の核戦争を経て、今やその千分の一ほどの個体を残すのみである。幾多の災害を乗り越えて生き残った人類は、氷点下でも辛うじて凍結していない僅かな海域に四本の巨大な柱を立て、その上に天板を設置した。天板の縁から、四方を寒気から守るための“ヴェール”が垂らされ、その区域を人類最後の安住の地とした。天板の中央には人工太陽が造られ、その動力は海水を汲み上げて利用する海水発電によってまかなわれている。
「ねぇママ、ヴェールの向こうには何があるの?」
六歳の誕生日を迎えたトーベは、母親に尋ねた。
「さぁ…ママもコタツの外には行ったことがないから、わからないわ。パパに聞いてみたらどう?」
息子の誕生日だというのに、パパの帰りは遅かった。みんなの太陽を維持するためだから仕方ないとママは言うけれど、自分よりも、あんな遠くでぼんやりと光っている太陽の方が大事なのだと言われたような気がして、トーベは少し悲しくなった。でも、友達と遊べるのも、食物がちゃんと育つのも、あの太陽のおかげだとママが教えてくれたから、パパの仕事を誇らしくも思っている。
「ただいま」
パパの声に、トーベは走って玄関へと向かう。いつもなら両手を広げて抱っこしてくれるのに、今日は頭をポンポンされただけだった。トーベは昨日の身体測定を思い出す。去年よりも体重が5キロ増えていた。パパが抱っこしてくれないのは、そのせいかもしれない。
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