コタツ連邦共和国

3/9
前へ
/9ページ
次へ
「最近、帰りが遅すぎない?トーベはずっと起きて待ってるのよ」 「すまない。トラブルが多くて…」 パパはすごく疲れて見えた。作業服から焦げたようなにおいがする。ママは臭いと言うけれど、トーベはパパのにおいが好きだった。 「ねぇパパ、聞いてもいい?」 「なんだいトーベ」 いつも綺麗に整えているパパの口ひげが少し乱れていた。よく見ると、ところどころに白いのが混じっている。疲れて見える原因はこれだろう。 「コタツの外には何があるの?」 作業服の上着を脱ぎながら、パパは答えた。 「コタツの外にはね、広い世界があるんだ」 「広い世界?」 ヴェールと天板に囲まれたこの世界が、トーベにとっての全てだった。はるか上の方にぶら下がっている太陽に照らされて、橙色に染まる街並み。そして太陽から遠く離れた世界の隅には、四本の柱と黒いヴェール。それ以外の景色を、トーベは知らない。 「コタツの外は、一面の氷の世界なんだ。冷たくて冷たくて、トーベは泣いちゃうかもしれないな」 どんなことがあったって泣くもんか。マイケルみたいな泣き虫と一緒にしないでほしい。 「コタツの中だと、太陽とヴェールのおかげで気温が一定に保たれているけれど、外にはヴェールがないからね。人間は凍え死んでしまうんだ」 キオンという耳慣れない言葉に、トーベは戸惑った。でも、学校の勉強をサボっていると思われたくなくて、トーベはそれ以上質問しなかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加