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「最近、帰りが遅すぎない?トーベはずっと起きて待ってるのよ」
「すまない。トラブルが多くて…」
パパはすごく疲れて見えた。作業服から焦げたようなにおいがする。ママは臭いと言うけれど、トーベはパパのにおいが好きだった。
「ねぇパパ、聞いてもいい?」
「なんだいトーベ」
いつも綺麗に整えているパパの口ひげが少し乱れていた。よく見ると、ところどころに白いのが混じっている。疲れて見える原因はこれだろう。
「コタツの外には何があるの?」
作業服の上着を脱ぎながら、パパは答えた。
「コタツの外にはね、広い世界があるんだ」
「広い世界?」
ヴェールと天板に囲まれたこの世界が、トーベにとっての全てだった。はるか上の方にぶら下がっている太陽に照らされて、橙色に染まる街並み。そして太陽から遠く離れた世界の隅には、四本の柱と黒いヴェール。それ以外の景色を、トーベは知らない。
「コタツの外は、一面の氷の世界なんだ。冷たくて冷たくて、トーベは泣いちゃうかもしれないな」
どんなことがあったって泣くもんか。マイケルみたいな泣き虫と一緒にしないでほしい。
「コタツの中だと、太陽とヴェールのおかげで気温が一定に保たれているけれど、外にはヴェールがないからね。人間は凍え死んでしまうんだ」
キオンという耳慣れない言葉に、トーベは戸惑った。でも、学校の勉強をサボっていると思われたくなくて、トーベはそれ以上質問しなかった。
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