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気がつくと、トーベは見たことのない乗り物のソファに横たわっていた。窓から見える景色が、ものすごい速さで動いている。夢なのか?ほっぺたをつねると痛かった。
「トーベ、起きたのかい?」
フランシスだった。相変わらず落ち着いた声だが、いつもの余裕たっぷりの表情じゃないのが、トーベを不安にさせる。
「フランシス、ここはどこ?」
「これは、リニアっていう乗り物でね、うんと速い電車だよ」
周りを見渡すと、知らない子どもたちがいた。年はバラバラのようだけど、みんな少し年上に見える。窓の外を見る子、泣いている子、お菓子を食べている子、先生のいない学校みたいだ。
「僕たちは、捨てられたの?」
パパとママの顔を思い出す。もうお別れだと言っていた。二度と会えないなんて、そんなのイヤだ。
「赤紙が届いた家の子どもたちは、このリニアに乗せられて、コタツの外に連れていかれるんだ。おそらくジョンとクロエの家にも、俺たちより先に赤紙が届いたんだろうね」
ママも行ったことがないコタツの外に、どうして子どもたちを連れてゆくのだろう。トーベにはアカガミの意図がわからなかった。
「コタツの外では、人間は生きていけないって、パパが言ってたよ」
「うん。世界はね、とっくの昔に人間の住める場所ではなくなったんだ。でも、諦めの悪い人間たちが、コタツを作って生き延びた。その子孫が俺たち。ほら、ヴェールが近づいてきたよ」
窓の外を見ると、あんなに遠かったヴェールがすぐ目の前まで迫っていた。
「ねぇ、コタツの外には、何があるんだっけ」
「太陽と月だよ。あんなまがい物の人工太陽じゃなくて、ホンモノの太陽はもっと力強いんだ。月は反対に、柔らかくて優しい光を放っているらしいよ」
まるでパパとママみたいだと思った。冷たいのは少し不安だけど、フランシスと一緒なら、コタツの外でもなんとかなるような気がする。もしかしたら、向こうでジョンにも会えるかもしれないし。またみんなでサッカーができるといいな。
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