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「こんなに汚れてしまって…ごめんなさいね?でもあのタイミングが一番だと思ったのよ」
親指が頬を撫でた瞬間、扇の体に付着した大量の血と肉片が跡形もなく消えた。服に染み込んだ血までも、綺麗さっぱりと。
だけど扇はそんなことに意識を向ける余裕がない。内に膨らむ感情と目に映る少女の顔しか頭にない。
忘れていた……否、奪われていた記憶が鮮明に浮かび上がる。幼き頃、他愛のない日々、気づかなかった彼女からの愛情。
自分の中に取り戻した彼女への愛情が脈打つ。視界に捉えた少女の顔をまともに見ることが出来ないほど体ごと血走った眼球を震わせる。
「………ぁ…」
「さあ、呼んでちょうだい。わたくしにあなたの記憶を奪った時に封印してきた『笑う』という行為を存分にさせてちょうだい」
彼女への親しみが、彼女への愛情が、変色する。
「……ま………いら…」
「はっきりと言ってちょうだい、愛しの弟ちゃん」
大切だった彼女への思いが、大切な人を奪われたどす黒い何かに染め上げられていく。
「…アマ………イラ…ッ!」
「そう、そうよっ。さあ呼んでちょうだい、くふ、ふ、あは、あはは…!」
ずっと好きだった自分の姉に対する思いが、凄まじい憎しみによって焼き払われ変貌を遂げる。
「……アマイラッ…!」
「もっとよ!もっと、心の底からわたくしを呼んで!!」
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