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握り拳を固める勇者から目を逸らし、前に立っていた勇者の隣を歩いていく。
「―――そうじゃなきゃダメなんだからよ」
通過するかしないか、そのタイミングで俺は言った。
「……え…?魔王…?」
「精霊だとか天使だとか、そんなのが出る前の話。人間と魔物が対立し、魔王に怯え勇者が立ち上がった少し前の世界。元々はあの関係性が正しいってヴォルトが言ってただろ」
振り返らないまま続ける。歩みも止めないままに。
「精霊どもが出てこなかったら俺とお前で平和にして、"最終的には人間が心から安心して暮らせる世界にしたかった"。お前がいれば人間も魔界には手を出さないだろうし、お互いの領分を守って幸せに暮らせる……そんな筋書きだったんだ」
「………」
「最終目標は変わらねえが、ちょっと遠回りしちまうな。まぁ仕方ねえんけど」
「その"最終的な形"とは、一体どのような世界なのですか?」
ただの質問ではない気がした。勇者の言葉には、俺の内側に踏み込んで行こうとする強い芯があるように思えた。
「同じ未来を見据えているのなら、ボクも知っておくべきでしょう?」
「その時が来たらな」
「今話してください、魔王」
「だから、その時が来たらだって言ってん――」
「"魔王の自分が死んでハッピーエンド"―――なんて言うつもりではないでしょうね?」
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