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「………」
後ろから前へ、正面に向くだけで勇者を視界から外す。目を逸らす。
夜空には綺麗な月が浮かび上がっている。だけど俺の目は地面しか見ていなかった。
「お前が俺を越える……か。果たして人間の寿命の間で実現するか疑問だがな」
「越えてみせます、必ずあなたを越えて、あなた自身も幸せに暮らせるようにボクが世界を変えてみせます」
「なんか俺がホントに死ぬ気みたいな話してっけど……まぁ、お前が俺より強くなれば俺は楽出来るし自由に出来る。期待せずに待つとしますかね」
再び歩みを再開させる。もう止まる気も振り返る気もない俺は真っ直ぐ自宅へ向かって暗い道を歩いていく。
「―――いつか必ず、あなたを苦悩から救い出してみせますから」
その言葉は、聞こえないふりをした。
不可能であろうことをさも可能であると言い切る勇者。そして、可能とするだけの覚悟と意思。その立ち姿はまさに勇者で、素直に格好よく思えて、
「………」
ただ黙るしか出来ない俺は、どうしようもなく格好悪いと思ってしまった―――。
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