全ては少女の掌の上で

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言葉のほとんどが理解出来なかった扇だが、ここでようやく視線が移動した。動かなくなった久奈から、切り離された右手を手首に付け直して笑う少女へと。 「『再生』の権能……あるべき場所に戻ったわね」 右手に持っていた久奈の物を握り潰す。だが血肉が飛び散ることはなく、ガラスのように細かく砕けたそれは光を放ち、ピンポン玉くらいの大きさの塊となった。 少女はそれを飲み込む。 一息に。ゴクリと喉を鳴らして。 「…………………お前…か」 「何かしら?」 「………お前が……ヤーちゃんを…」 「お前じゃなくて名前で呼んで欲しいわねぇ。…あっ、そうか。あなたの記憶はわたくしが預かっていたんだったわ」 「何を―――っン」 香る懐かしい匂いが鼻の中に流れ込む。 柔らかい感触、優しい温もりが唇を伝ってくる。 いつの間にか口付けをされた。 直後、扇の脳に電流が走ったかのような痺れが発生し、間近で見ていた少女の顔が一瞬見えなくなった。 「んっ……はぁ。これで記憶は元通りになったわね、我が愛しの弟ちゃん」 血に濡れた扇の顔に両手を添える少女を、扇は見開いた目で見据えていた。 莫大な感情の渦。それは憎しみや怒りなんかじゃない、少女に向けた親しみや愛情といった"失われていた物"が一気に駆け巡ったのだ。
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