3 幼馴染み

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 要が運んできたのがよりにもよって味噌バターラーメンだったから、一夏は絶句した。  こういう偶然は、何かのサインやメッセージだと、母親の紗佳はよく言うが、いったい何のサインなのか。  真っ先に思い浮かんだのは、槙のことだ。槙がいまこの瞬間にでも消えてしまったのではないかという不安が頭をよぎる。  頭をぶんぶんと振った。  まだ槙は消えない。来週会うと約束したのだから、消えてもらっては困るのだ。  まだ消えないでいて欲しいと願う人がいるだけで、きっと槙は引き留められるはずだ。せめてそう信じたかった。  大きく息を吐いてから、シュークリームに食らいつく。 「今日はどこに行ってたんだ?」  突然の質問に、一夏の心臓がどくんと音をたてた。 「……水族館、とか」 「S町の?」 「うん」 「……誰と?」  探るような質問に、困惑した。  槙といたことは、要には言いたくなかった。黙り込んだ一夏を見て、要がふっと笑った。 「ごめん。詮索するつもりはないよ。……ただ、なんとなく一夏がひどく哀しい想いをしてるような気がしたから、気になって」 「……」 「それでさっき家に行ったんだけど。……そうでなければ、いいんだ」 「……ごめん」  いつもそうなのだ。一緒にいなくても、離れている時でさえ、要には一夏の心の裡が伝わってしまう。幼い頃から、ずっとそうだった。 「今日は、大丈夫」 「そっか」 「いつもありがとうな」  一夏の言葉に、要は一瞬顔を歪めた。ひどくせつない表情を浮かべ、一夏に向かって指先をゆっくりと伸ばしてくる。  もうすこしで触れるという距離まで近づいて、指先がふと止まった。  指先が、宙をさまよう。 「クリーム、ついてる」  口の端を指さして、要がふっと、自嘲するような笑みを浮かべる。  その顔からは先ほどのせつなさは消え、普段通りの冷静な表情の要が、そこにいた。
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