3 幼馴染み

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 要の隣で微笑む人を、その笑顔に応える要を想像する。心臓が、ギリギリと音をたてて軋むような感覚だった。悲しくて、痛くて、到底耐えられないと思った。 「っ、……」  震える身体から零れた嗚咽を両手で塞ぐ。  自分の気持ちが、一夏から溢れ出した。  そして、それはもう二度と、蓋をして閉じ込めることなどできないのだ。  一度自覚した恋心は、その後の一夏を苦しめ続けていた。ふたりで過ごす時間は少なくなり、要の家に泊まりに行くこともやめた。近づきすぎると意識しすぎて、挙動不審になってしまうからだ。  勘のいい要は、一夏の変化に気づかないはずがない。以前と変わらず接してくれているが、ふたりの関係は、やはりどこかぎこちなさが漂っていた。  あれから四年が経ったいまでも、要の胸元にはあの銀色の指輪が輝いている。  要の好きなひとがだれなのか、一夏は知らない。きっとこの先も、問いただすことはないだろう。ひとたびそこに触れてしまえば、今度こそ要との関係が決定的に変わってまうのではないかという恐怖に近い感情が、いつも一夏を脅かしていた。
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