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4 二度目の日曜日
次の日曜日。待ち合わせの場所に、槙はやってきた。槙の顔を見た瞬間、消えてしまってはいないかという長い間の心配が解け、ふっと息をつく。そんな一夏の頭を、槙はぐしゃりと掻き回した。
「またすこし薄くなった」
「仕方ないさ。一夏に会いたくてなんとか保っている身なんだから」
今度の装いは白いシャツに濃紺のデニムだ。シンプルな装いだが、細身の槙にはよく似合っている。
「今日もデート、楽しもうな」
鼻歌を歌いながら上機嫌で運転する姿を見つめて、一夏は思う。槙の笑顔はいい。
その日は一夏の希望で高原をドライブした。爽やかに晴れた夏の日に、まぶしいほどの緑の草原が見渡すかぎり広がっている。牛や馬の群れもいて、一夏ははしゃいで辺りを走り回った。
昼食は特上和牛サーロインステーキで、もちろん槙の奢りだ。口のなかで溶けるような肉のうまさに「すげ! うめえ!」と叫ぶ一夏を、槙は楽しそうに見つめていた。
「いいなあ。こういうの」
「なにが、」
「世のオジサンの気持ちが分かるってこと。こうやって、金の力にまかせてピチピチの若者を喜ばせてさ、それを眺めているだけで、心がときめくんだよ」
「……槙、見た目若いのにオヤジみたいなこと言うなよ」
「もう一枚肉食べさせたら、今夜お持ち帰りしていいか?」
「黙れジジイ」
こんな軽口のやりとりが、槙とだととても楽しい。一夏は心からリラックスしていることに気づいた。
要といる時は、いつも緊張している気がする。要の言葉に、表情に、いつも身構えている自分がいる。
こんなふうに、心から笑いあって楽しむ感覚を、もう長い間忘れていたのだと、槙に気づかされる。
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