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デザートにジャージー牛乳のソフトクリームを食べ、一夏は満腹だった。
ふたり並んで、草原に寝そべって風に吹かれる。
槙が手を伸ばしてきて、一夏の指に触れる。一夏は振り払わず、槙にゆだねた。
槙の手は意外なくらいあたたかかった。そのぬくもりに、要が握りしめてくれた手のあたたかさを思い出して、また心が突き刺されたような痛みを感じた。
「……なあ一夏、」
「……なに、」
「もし本当に相沢に好きなやつがいるとしても、きみの気持ちは伝えるべきだ」
「……」
「そんな思いつめた顔をしてるなら、すっきりしたほうが楽だって事。……これは、ぼくの経験上、断言できる」
手に触れたら、心まで読まれてしまうのだろうか。槙の言葉に、一夏は大きく息を吐いた。
「槙はさ、」
「なに、」
「どうして自殺なんかしたんだ?」
一夏の問いに、槙は苦笑した。
「いきなり直球投げてきたな」
「……ごめん、でも聞きたい」
「……言わない」
「……そっか、」
「口に出したくないし、思い出したくもない。……それにさ、」
「……なに?」
「いま、一夏と楽しく過ごしてる。……だから、もういいんだ」
「……」
「ぼくは、一夏といるのが楽しい。……楽しくて、すこし欲張りになってる」
槙の横顔を見つめる。子どもみたいに、無邪気な顔で笑っていた。
「欲張り?」
「そう。なあ一夏、八月の日曜日を、ぼくにくれないか?」
まっすぐな瞳が、一夏を見つめ返した。
「この夏休みの間だけ。終わったらもう、ぼくは消えてしまうから」
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