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要はテーブルの下に寝転がっていた。飲んでいたビールの缶を手に取ると、半分以上は残っている。もしかしたら、アルコールを受け付けない体質なのかも知れない。
「おい、要」
テーブルの下に潜って要の身体を揺するも、「うん」とか「ああ」しか応えない。
「こんなところで寝るなよ。身体痛くなるぞ」
「……一夏のベッド、貸して」
「いいよ。歩ける?」
「なんとか」
貴和子さんに断わってから、要を自分の部屋まで連れて行った。足がふらつくようなので、肩に手を回す。もう子どもではない、しっかりと幅のある、骨張った肩の感触がじかに伝わってきて、変に胸が騒いでしまう。
ベッドに転がすと、要は仰向けになり、苦しいのか片腕で顔を覆っていた。
「水、持ってくるよ」
「……ごめん、迷惑かけて」
「こんなの迷惑でもなんでもない」
「……一夏、」
部屋を出て行こうとしたところを、呼び止められた。
「どうした?」
「……付き合ってるひと、いるのか?」
振り返って、要を見る。腕に隠されていて、その表情は見えない。それでも普段の要からは考えられないような、淋しい声だった。
「……いないよ。どうして?」
「……槙先生?」
驚きのあまり、目を大きく瞠った。
「一夏のことなら、なんだって分かる。……知ってるだろ」
「……」
「槙先生と、付き合ってる?」
「だから、違う」
「一夏、」
もう一度要に呼ばれて、一夏はベッドの側に近づいた。顔を覆っていた腕が、一夏の腕に伸びる。強い力で手首を掴まれた。
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