5 くちづけ

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 要はテーブルの下に寝転がっていた。飲んでいたビールの缶を手に取ると、半分以上は残っている。もしかしたら、アルコールを受け付けない体質なのかも知れない。 「おい、要」  テーブルの下に潜って要の身体を揺するも、「うん」とか「ああ」しか応えない。 「こんなところで寝るなよ。身体痛くなるぞ」 「……一夏のベッド、貸して」 「いいよ。歩ける?」 「なんとか」  貴和子さんに断わってから、要を自分の部屋まで連れて行った。足がふらつくようなので、肩に手を回す。もう子どもではない、しっかりと幅のある、骨張った肩の感触がじかに伝わってきて、変に胸が騒いでしまう。  ベッドに転がすと、要は仰向けになり、苦しいのか片腕で顔を覆っていた。 「水、持ってくるよ」 「……ごめん、迷惑かけて」 「こんなの迷惑でもなんでもない」 「……一夏、」  部屋を出て行こうとしたところを、呼び止められた。 「どうした?」 「……付き合ってるひと、いるのか?」  振り返って、要を見る。腕に隠されていて、その表情は見えない。それでも普段の要からは考えられないような、淋しい声だった。 「……いないよ。どうして?」 「……槙先生?」  驚きのあまり、目を大きく瞠った。 「一夏のことなら、なんだって分かる。……知ってるだろ」 「……」 「槙先生と、付き合ってる?」 「だから、違う」 「一夏、」  もう一度要に呼ばれて、一夏はベッドの側に近づいた。顔を覆っていた腕が、一夏の腕に伸びる。強い力で手首を掴まれた。
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