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要に触れられている。
一夏は身震いする。一瞬で身体が熱くなる。
「頼むから、嘘はつかないで、教えて欲しい」
真っ直ぐに見つめる瞳が揺れ、声がかすかに震えている。
「嘘じゃない。理由は言えないけど、付き合うとか、そんなのじゃないんだ」
一夏の言葉に、要はくしゃっと顔を歪めた。ひどく後悔したような表情だった。
「……詮索しないって言ったのに、ごめん」
「……水、」
「もう少し、このままでいてくれないか」
「……」
一度離した手を、ふたたびぎゅっと握られる。
「一夏の手、あたたかくて気持ちいいな。……もう長いこと、忘れてた」
夢見心地でつぶやいて、要は一夏の手の甲に顔を近づけると、頬ずりするように何度も擦りつけてから、やがて小さく規則正しい寝息を立て始めた。
握りしめられたままの手を、振り解こうとは思わなかった。片方の手で要の髪を撫でる。
子どもみたいに甘える要は初めて見る姿で、一夏はそれをどう捉えていいのか分からず、混乱していた。
教師と日曜日毎に会っているなんて、要にとっては心配の種でしかないのかも知れない。
でも、もしこれが嫉妬だったら?
そう思った途端、かっと頬が熱くなり、自分でも顔中が赤く染まるのがわかった。 慌てて頭を横に振る。
要の首にかかった、銀のチェーンを見つめる。
「……期待させるようなこと、言うなよ。馬鹿……」
声に出したら、泣きたくなった。気持ちが溢れて、留まらない。
顔をゆっくりと近づける。間近でその寝顔を見つめてから、一瞬だけ、そっとくちびるを重ねた。
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