5 くちづけ

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 要を起こさないようにそっとベッドの端に座って、しばらく寝顔を見つめていたが、そのままうとうとしてしまったらしい。握りしめた手を解かれる気配で目が覚めた。 「大丈夫か?」  要を見つめると、すでに上半身を起こしていた。 「大丈夫……けど、頭痛え」 「まだ休んでろよ」 「いや、帰るよ。……さっきは悪かったな」  そう言ってベッドから下りると、さっさと部屋を出て行こうとする。 「要、」  一夏の声に、要はゆっくりと振り返った。 「家まで送るよ」 「いいよ。すぐそこなんだから」 「たまには面倒見させろ」 「嫌だね。家に着いたら、今度は俺が一夏を送らないと心配になるだろ、」 「……それって、白やぎと黒やぎの歌みたいだな」  要が笑う。ようやく笑った顔を見て、ほっとした。 「また遊びに来いよ」 「うん。行く」  じゃあな、と言って、要は部屋を出て行った。窓辺に立ち、闇夜に紛れて見えなくなるまで、その背中を眺めていた。  ベッドに寝転んで、まだ熱が残っているシーツに頬ずりする。一瞬のこととはいえ、キスしたことを思い出して、身体の奥がじりじりと熱を帯びる。  やわらかくて、弾力のある要のくちびる。吐息の湿り気。  枕やシーツに残った要の匂いを深呼吸するように吸い込みながら、一夏は下半身に手を伸ばす。  一夏の手に頬ずりする要の表情を思い出しながら、ゆるゆると抜くと、堪らず息が漏れた。 「あ、……か、なめ……かなめ……」  名前を呼びながら手の動きを早めれば、またたく間に頂点が訪れた。ぐたりと全身の力を抜いて、放心する。まだ荒い呼吸を吐きながら後始末を終えると、次第に痛みに近い罪悪感が湧き起こる。  これまでに幾度となく襲われたこの感情に、一夏はいまだ慣れることはない。
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