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要を起こさないようにそっとベッドの端に座って、しばらく寝顔を見つめていたが、そのままうとうとしてしまったらしい。握りしめた手を解かれる気配で目が覚めた。
「大丈夫か?」
要を見つめると、すでに上半身を起こしていた。
「大丈夫……けど、頭痛え」
「まだ休んでろよ」
「いや、帰るよ。……さっきは悪かったな」
そう言ってベッドから下りると、さっさと部屋を出て行こうとする。
「要、」
一夏の声に、要はゆっくりと振り返った。
「家まで送るよ」
「いいよ。すぐそこなんだから」
「たまには面倒見させろ」
「嫌だね。家に着いたら、今度は俺が一夏を送らないと心配になるだろ、」
「……それって、白やぎと黒やぎの歌みたいだな」
要が笑う。ようやく笑った顔を見て、ほっとした。
「また遊びに来いよ」
「うん。行く」
じゃあな、と言って、要は部屋を出て行った。窓辺に立ち、闇夜に紛れて見えなくなるまで、その背中を眺めていた。
ベッドに寝転んで、まだ熱が残っているシーツに頬ずりする。一瞬のこととはいえ、キスしたことを思い出して、身体の奥がじりじりと熱を帯びる。
やわらかくて、弾力のある要のくちびる。吐息の湿り気。
枕やシーツに残った要の匂いを深呼吸するように吸い込みながら、一夏は下半身に手を伸ばす。
一夏の手に頬ずりする要の表情を思い出しながら、ゆるゆると抜くと、堪らず息が漏れた。
「あ、……か、なめ……かなめ……」
名前を呼びながら手の動きを早めれば、またたく間に頂点が訪れた。ぐたりと全身の力を抜いて、放心する。まだ荒い呼吸を吐きながら後始末を終えると、次第に痛みに近い罪悪感が湧き起こる。
これまでに幾度となく襲われたこの感情に、一夏はいまだ慣れることはない。
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