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「先生にはやらなければならないことがある。そんな気がするの。それは恐らく、先生のなかの、ある感情を解放すること」
「感情?」
「いま私が分かることはそれだけ。……でも、これは私の推測だけど、先生はきっとなにかすごくつらいことがあって、でもそれを口にすることも表現することもできずに、死んでしまったんじゃないかな」
そう言って、紗佳は両手を一夏の前に差し出した。
「私の手を握って、目を瞑って」
紗佳の手を取って、しっかりと握りしめる。
「今から念を送るわ。見えたり、聞こえたり、感じたりしたことが、必ずなにかのヒントになるはず」
「母さんには、見えるの?」
「いいえ。これはあなたにしか読み解くことができないものよ」
一夏はぎゅっと目を閉じる。しばらくすると、紗佳の両手からまるで電流のようなびりびりとした感覚が伝わってきて、心臓までたどり着いたと感じた瞬間、まるで映画館のスクリーンのように大きく鮮やかな映像が、瞼の裏に映し出された。
「なにか感じたでしょう?」
「ああ。……見えた」
一夏は息を呑む。
それは、ゆっくりと回転しながら輝く、銀色の指輪だった。
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