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指輪のイメージは固まっているし、貴和子さんが丁寧に教えてくれたこともあって、成形まではスムーズに進んだ。槙の指のサイズは分からないから、一夏に合わせて作った。
「なにか彫る?シンプルなのもいいけれど、文字とか模様を入れても格好良いわよ」
そう言って、貴和子さんがいくつかの指輪を持ってきてくれた。メンズだと、クロスや象形文字などが人気らしい。
槙へのメッセージを入れよう、と一夏は決めて、真っ先に思い浮かんだ言葉を、ニードルで彫る。
その文字を見て、貴和子さんが突然「うわあ!」と叫んだ。驚いて、貴和子さんを見つめる。
「……紗佳さんが言ってた運命って、こういうことだったのね。……鳥肌立っちゃったわ」
「えっと、運命、って?」
一夏の質問には答えず、感慨深げに何度もうなずく貴和子さんの言葉の意味は分からない。仕方なく一夏は黙って作業を進めた。
やすりをかけてから焼成し、もう一度丁寧に磨いて、完成する。
「素敵よ!」
貴和子さんの言葉に気をよくして、出来上がったばかりの指輪を眺める。こんなに簡単に指輪が作れるなんて思いもしなかったから、単純に嬉しかった。
「ただいま」
玄関のドアが開く音の後に、要の声がした。時計を見ると五時過ぎだ。指輪作りに夢中になっていたら、いつの間にか夕方になっていた。
「一夏、来てたの、」
「見て、これ一夏くんが作った指輪」
「一夏が?」
見せて、と言われて差し出した指輪を手に取った要の目が、大きく見開かれる。
「……これ、」
要の指先が、かすかに震えていた。
「どうして……」
指輪を一夏の手に戻すと、要は胸元からそれを取り出して、一夏の前にかざした。
要が、いつも身につけている指輪。初めて間近で見るそれに、一夏の心臓が、どくんと大きく音を立てる。
それは、形も、そこに書かれた文字も、一夏が作ったものとまるで同じだった。
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