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「一夏くんは、要のことを大切に思ってくれているのでしょう」
真っ直ぐな瞳が、一夏を見つめる。その言葉が意味していることを悟って、一夏ははっと息を呑んだ。
「貴和子さん、俺……」
「幼い頃からずっとあなたたちを見てきたから、分かってる」
「……」
なにをどう伝えればいいか分からなくて口ごもる一夏の手を、貴和子がやさしく握りしめる。
この人に、嘘はつきたくない。そう思ったから、覚悟を決めた。
「……好きです。ごめんなさい」
「どうして謝るの? ひとを好きになることは、悪いことではないでしょう?」
「だって俺は、」
「要のことを好きでいてくれて、本当にありがとう」
一夏の言葉を遮って、貴和子さんはきっぱりと言い放った。その言葉の力強さに、胸を打たれる。あたたかくて、強くて、泣きそうになった。視界がたちまちにぼやけて、堪らず俯く。
「私は一夏くんに感謝してる。だから、これからも真っ直ぐな気持ちでいてね」
「……」
涙がぽとぽとと、床に零れ落ちた。
「根暗で引きこもりで本っ当に面倒な子だけど、これからも要のこと、よろしくね」
おどけた声で笑う貴和子さんに、涙を拭いながら、「はい」と何度も頷いた。
貴和子さんに指輪のお礼を言ってから、要の家を後にした。
帰宅してすぐにシャワーを浴び、友人と飲みに出かけたくまさんが用意してくれた夕食を食べて、早々に部屋へと引き上げる。ベッドに寝転がり、指輪を手に取って見つめた。
槙への贈り物として作ったこの指輪と同じものを、要が握りしめて生まれた。
この事実が意味するところは、まだ一夏には分からない。ただ、指輪を槙に贈ることは間違ってはいないと確信している。
まるでRPGの世界に迷い込んだようだと、一夏は思う。
頭がパンクしそうなくらい、さまざまな思いが駆けめぐっている。
それでも、立ち止まってはいられない。どうしたって、槙を光の世界に導きたい。
槙が無事に成仏することができたなら。
その時は、なにもかも要に話そう。槙とのことも、要への想いも、なにもかも。
そう心に決めて、一夏は指輪を強く握りしめた。
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