5 くちづけ

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5 くちづけ

 その日は夜七時過ぎに帰宅した。玄関を開けると、リビングからは楽しそうな笑い声が響いてくる。 ただいま、と言って靴を脱いでいたら、紗佳が現れた。 「お帰り。貴和子さんと要くんが来てるよ」 「要が?」  リビングに入ると、くまさんと要が向かい合って座り、楽しそうにお喋りをしていた。 「あ、お帰り。みんな待ってたよ」  くまさんが明るく笑って手招きをする。  要はこちらを見て軽く手を上げると、すぐに顔をそむけ、ふたたびくまさんと話し始めた。 「ごめんなさいね。久しぶりに家族水入らずで過ごせるっていうのに、お邪魔してしまって」  貴和子さんがキッチンから顔を覗かせた。要と瓜二つの整った顔立ちで、スタイルも良いので若々しい。ジュエリーデザイナーという職業柄、普段でもお洒落を欠かさない彼女は、今日はピンクのポロシャツにジーンズ姿で、随分とスポーティーな印象だった。 「いえいえ。賑やかで楽しそう」 「一夏くんを待っている間に、結構飲んじゃったのよ」  ふふふ、と楽しそうに、貴和子さんが笑う。  テーブルの上には鶏の唐揚げにピザとポテトサラダ、それに茹でたとうもろこしと枝豆。 まるでビアガーデンみたいなメニューだ。すでにビールの空き缶が十数本転がっている。
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