橋本妙子の回想

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「銀河鉄道の夜」の図書カードのスタンプの最後の日付を見た途端、私は涙が込み上げてくるのを感じた。  同時にこの本は絶対に明美ちゃんが何度も借りて読んでいた本だと確信した。  最後の返却日の日付は明美ちゃんに「橋本さん、もう私に話しかけないでくれる」と言われた日だった。  あの日、明美ちゃんはこの本を返却するとそれを最後にもう「銀河鉄道の夜」を読まなくなった。 「銀河鉄道の夜」は友人カムパネルラと銀河鉄道に乗って「本当の幸い」を求めて旅をする話だ。  明美ちゃんはこの話を何度も読んで親友と銀河鉄道に乗ることを夢見ていたのだろう。  その夢が壊れた。  夢を壊したのはきっと私だ。  明美ちゃんはどんな気持ちでこの本を返しに行ったのだろう。  私はその時の明美ちゃんの気持ちを想像した。  ―明美ちゃん、本当にごめんね。
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