49人が本棚に入れています
本棚に追加
「水野さん、これ、食べる?」私はリュックから持ってきたお菓子を取り出して見せた。
「いいの?」水野さんは恐る恐る私に訊いた。
「水野さんの持ってきたお菓子と交換しょうか?」
「う、うん」水野さんは頷くと小さなリュックからお菓子を出してきた。
「橋本さん、ごめん、私のはこんなのしかないの」
すまなさそうにして水野さんはお菓子を私に差し出すのを躊躇っている。
「水野さん、それ、ちょうだいっ」
私は水野さんが出し渋っている駄菓子の袋を取って封を開けた。
お菓子の匂いが辺りに広がる。
これでもう水野さんの匂いは誤魔化される。
(これで、もう匂いを気にしなくていいよ)と私は心の中で言った。
「はいっ」私は自分のお菓子の封も開けると中からスナック菓子を取り出してあげた。
「おいしい、私、こんな美味しいの食べたのはじめて」
前の日にお母さんが買ってくれた只のおやつだけれど、水野さんはまるで何かのご馳走のように美味しそうに食べてくれている。
「ねえ、水野さん、普段は何をして遊んでいるの?」
お菓子を食べながら訊ねる。
「ほ、本を読んでるの」
水野さんはお菓子を頬張っていたので慌てながら答えた。
「ふーん。それで、何を読んでるの?」
「『銀河鉄道の夜』・・橋本さん、知ってる?」
水野さんはメガネの縁を上げながら訊ねる。メガネの度が合っていないみたい。
「ごめん、水野さん、私、全然、知らない」
「宮沢賢治さんの本なの」
「あっ、もしかして『よだかの星』の絵本の作者? あの人が書いた本なの?」
「そ、そうよ!」
水野さんは席から飛び出しそうなくらいに喜んでいる。
「あの本は本当は絵本じゃないのよ。文章だけなんだけど、子供向けに絵本にされているの」
水野さんはそう説明する。
最初のコメントを投稿しよう!