橋本妙子の回想

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 明美ちゃん以外誰とも話したくない・・そう思い続けていたけれど、秋が来て同じクラスの子の伊藤早苗さんとひょんなことから話すようになり、友達になった。  伊藤さんは三つ編みの似合うしっかりした感じのする子だった。  伊藤さんにも友達がいないことを私は知っていた。いつも給食を一人で食べていたからだ。  話すようになったきっかけは私の給食のスープにウサギの餌が入っていた事件からだ。  その時の給食の当番をしていたのが伊藤さんと「芦田堂」の娘さんの芦田さんだった。  最初はウサギの餌なんて私のスープに入っていなかったはずだ。たぶん誰かがあとから入れたのに違いないけれど、その時は自分がボーっとしているからそんなことをされるのだと思っていた。  その後、宿題のプリントを忘れて芦田さんと一緒に廊下に立たされた時、 「最初はスープにウサギの餌なんて入ってなかった気がするの」 と言ったけれど芦田さんは虚ろな目をして私の話を聞いていないように見えた。  それからしばらくして伊藤さんが耳打ちするように小さな声で話しかけてきた。 「橋本さん、ちょっと話がしたいの、いい?」  私は教室からは少し離れた廊下で話を聞くことにした。内緒話ではないかと思ったからだ。 「伊藤さん、何かあったの?」 「ウサギの餌の事件の時の話なの。スープを入れた私が訊くのも何だけど、橋本さんのスープに最初からウサギの餌なんて入ってた?」 「最初はスープにそんなもの入ってなかったわ。その話を芦田さんに言ったんだけど、芦田さんはぼんやりしてたみたいで聞いてくれなかったの」 「やっぱりね。他の子に聞いたんだど、川田さんが入れたのを見たって言う子がいるの」 「川田さんが?・・ああ、そういえばあの時、私の近くにいたわね」  うっかり私が食べてたらどうなるんだろう?別に死にはしないだろうけど。世の中にはひどいことをする人がいるものだ。 「それって、私への嫌がらせなの?それともスープを入れた伊藤さんへの?」 「たぶん、芦田さんへの嫌がらせだと思うわ」  芦田さんへの? 「でも、スープを入れていたのは伊藤さんよね?」 「川田さんにはわかっていたのよ。芦田さんが私をかばうだろう、って」 「そんな・・」  芦田さんの性格なら給食当番の相方の伊藤さんをかばうだろうと予想してそんなことを。  それは川田さんたちの芦田さんに対するイジメだ。
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