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「私ね、芦田さんって、すごい人だなって思ったの」
伊藤さんは芦田さんのことを話し始めた。
「芦田さんは友達でも何でもない私をかばってくれたのよ。給食の当番で実際にスープを入れたのは私なのに」
芦田さんって正義感が強いんだ。私にはそんなことはできない。
でも明美ちゃんだったら、私をかばってくれそう。
「それに私、川田さんが芦田さんのランドセルから宿題のプリントを抜き取るのも見たの」
「それ、本当なのっ?」
私が思わず大きな声で訊ねると伊藤さんは周りを気にしたあと強く頷いた。
川田さんって、すごく悪い人なんだ。芦田さんってそんな人に虐められてるんだ。
「でも、私、それを見ていても誰にも言えなかった。それがすごく辛くて、誰かに言おうと思って」
伊藤さんは悔しそうに話す。
「川田さんに直接言ったら、今度は私が何かされそうで言えないの」
伊藤さんは自信なさげだ。けれど、私だってそうだ。
こんな時、明美ちゃんならどうしたのだろう?
「うーん。私も言えないかもしれないわ。あの人、赤坂さんというもっと意地悪そうな子とも仲がよさそうなんだもの。何だか怖いわ」
「橋本さんもそうなの?」
「うん、怖いのは伊藤さんと一緒かも」
私も伊藤さんもクラスの中では大人しい部類だ。気の強い子に向って強くは言えない。
そこで疑問が浮かぶ。
「でも、どうして私にこの話をしたの?」
「な、なんとなくよ・・」
伊藤さんはそこで言葉を詰まらせる。さっきまでたくさん話していたのが嘘のよう。
「ただなんとなく?」
伊藤さんの頬が少し赤くなっている。
「わ、私、給食の時間、誰かとお話しながら食べたいな、って思って。そ、その・・」
しどろもどろになって伊藤さんは答えている。
「えっ、でもそれって、芦田さんの話とは関係がないじゃない!」
そう言いながらも伊藤さんの言葉に私は次第に体が熱くなるのを感じていた。
私も同じだったからだ。一人で給食を食べるのは変に周りの視線を感じるし、時間が経つのも遅く感じる。食べ終わった後はもっとつらい。
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