橋本妙子の回想

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「けれど、これでようやくわかったわ」  伊藤さんは納得したようにそう言うと深い息を吐いた。 「何がわかったの?」 「橋本さんが時々ぼんやりして何かを考えている理由よ。私、前から気になっていたの」 「そんなに私ぼんやりしてたかなあ」  やっぱり伊藤さんには気づかれていた。 「そういうのって、案外自分では気がつかないものなのよ」  そうだったのか。伊藤さんに悪いことしていたな。  そう思いつつ、また明美ちゃんのことを思い出している自分に気がつく。  お父さんは伊藤さんが帰った後「挨拶もちゃんとしてるし、なかなかいい子じゃないか」と言った。  何で?明美ちゃんもおんなじ私の友達じゃない、どこが違ってたっていうのよ。  明美ちゃんも挨拶はお父さんにちゃんとしてたわよ!  図書室で宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を手にしたのはその頃だった。  明美ちゃんと初めて話をするようになったバスの中で教えてもらった本だ。  図書室に置かれていた二冊のうち一冊はボロボロになっていた。背表紙も取れかかっている。  きっと明美ちゃんが何度も借りて読んでいたんだ、と勝手にそう推測した。  私はぼろぼろになった方の本を手にした。  裏表紙に付いている図書カードのたくさんの日付のスタンプを見て驚いた。  返却日と同じ日にまた借りている。それが何度も続いている。  そして、それは去年、突然途切れている。  その後は誰もこの本を借りていない、きっとぼろぼろになっているからだろう。  もう一冊の方がずっと綺麗だから誰だってそっちを借りる。
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