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「伊藤さんは『銀河鉄道の夜』って読んだことある?」
「ああ、教科書に一部が載ってた小説よね、私は読んでないわ」
そっけない返事が返ってくる。伊藤さんはこの話題に興味がなさそうだ。
「そ、そう・・」私の声が小さくなる。
「水野さんが読んでいたのね?」
伊藤さんに言われてまた明美ちゃんに関わる質問をしてしまったことに気づかされる。
「う、うん」
私はこくりと頷いた後「ごめんね、伊藤さん」と謝った。
「橋本さん、どうして私に謝るのよ」
「私ね、やっぱりダメなの、思い出してしまうの」
「水野さんのことでしょ?」
「そうなの、伊藤さん、本当にごめん」
「別にいいわよ。そんなことを謝らなくても」
「私、どんなことでも伊藤さんに隠しておくのはイヤなの」
言っておかなくてはいけない。
「どうして?」
「だって伊藤さんは私の大事な友達だから・・」
「水野さんのことは?」
「水野さんも大事な友達だったの、私は今でも友達だと思ってる」
こんな話を聞かされる伊藤さんはどんな気持ちがしたのだろう。
きっと気を悪くしているのに違いない。
「それを聞いて少し安心したわ」
そう言うと伊藤さんは少し笑みを浮かべた。
「えっ?」
「だって、そんな橋本さんだから、私は友達になろうって思ったの。橋本さんが以前のことを忘れてしまうような人だったら、私、そんな気持ちにはならなかったと思うの」
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