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「中におるのんは、わかっとるんや」
ドンドンドアを叩く音が響いた。
「お母さん、誰か来てるよ」
私は母を起しながらメガネを探す。
「ドアを開けたらあかん!」
母が小さな声で私を制する。
そうか、わかった。母の商品を買った人たちが文句を言いに来ているのだ。母は昼間はいないからこんな時間を狙って来ている。
布団の中でしばらく身を潜めていると、男たちは諦めて帰っていった。
朝が来ても部屋の中が暗かった。
その理由は外に出てみるとすぐにわかった。ドアや窓中に「詐欺師」「ペテン」と汚く書かれた紙が何枚も貼られていて日光を遮っていたからだ。
母と私は一緒に貼り紙を丁寧に剥がした。
「明美は家の中に入っとり」母はそう言って私に家の中に入るように言ったけれど私は首を振って紙を剥がし続けた。
剥がす行為をしていないとこの家が無くなりそうな、そんな気がするからだ。
こんなボロボロの家でも母と過ごせる唯一の場所だ、なくなってしまっては生きていけない。
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